階段を下りて1階の廊下を真っ直ぐ進んだ先、一番奥にある部屋が保健室だ。
ここからだとそれなりに距離がある。
話すことがないし、氷乃瀬くんも私と話したくなんかないだろうから黙っていよう。
「俺のこと、知らないと思ってた」
「えっ?」
午前中の授業で出されたレポート課題のことでも考えようと思っていた時、不意に氷乃瀬くんが話し掛けてきた。
「さっき俺の苗字呼んでたでしょ。俺は昨日も今日も名乗ってないのに」
「今日のお昼休みまでは知らなかったよ。友達に昨日の放課後の話をしたら氷乃瀬くんじゃないかって教えてくれたの」
「あー、そういうことね。んでアンタの名前は?」
「いいよ、知らなくて」
「“図書委員さん”だと長いじゃん。それに俺の名前は人づてに聞いておいて、アンタは秘密にするのってなんか不公平じゃない?」
不公平っていうのは違うような気が…。
でもこういう場合、名乗らないのも変な話か。


