「俺に何の用事?」


「あのね、学校の近くにコーヒーの美味しいカフェがオープンしたんだけど、今日の放課後一緒に行きたいな~と思って」


「行かない」


「それなら、駅前のオシャレな雑貨屋さんとかどう?」


「アンタと行きたい場所なんて無い。一人で行けばいいだろ」


「な~んだ、今日はそういう気分じゃないってことね!また今度、改めて誘うね!」


落ち込むわけでも不満がるわけでもなく明るいトーンで言葉を返した女の子は、鼻唄まじりで軽快に階段を上って行ってしまった。


冷たくて低い声、そして棘のある言い方。


氷乃瀬くんは明らかに嫌がっていたのに、前向きに解釈した上にお誘いの再挑戦まで宣言していくなんて凄い人だな。


空気を読めないのか、読まないのか。


「はぁ……」


大きなため息をつきながら重い足音を響かせて階段を上っていく氷乃瀬くん。


もし今みたいなことが日常茶飯事なんだとしたら、身を隠したくなる気持ちも分かる気がする。


隠れる場所は選んで欲しいけど。


あっ…。


もうすぐ予鈴がなるから急がなくちゃ。


階段を駆け上がった私はビクッと肩を震わせた。