「こっちは閑静な住宅街が広がってるんだな」
「氷乃瀬くんは、どの辺に住んでるの?」
「駅の近く。さっきのバス停からだと歩いて5分以内」
それじゃあ、私の家とは真逆の方向じゃん。
凄く悪いことしてしまったな。
気を遣わせないように、傘を買うとか迎えが来るとか言えば良かった…。
霧雨が静かに降る中、しばらく歩くと住宅街の間を流れる川の手前に出る。
私にとっては見慣れた景色。
だけど氷乃瀬くんは驚いた様子で目を見開いた。
「桜、すごっ……」
「ここ、両側の川沿いに桜の木がたくさん植えられているから今の時期は特に見応えがあるんだ」
「へぇ...」
「えっと…あの階段を降りた先に橋がありまして、それを渡ると私の家まであと少しです」
「うん、分かった」
こんなに歩かされると思わなかったとか、家まで送るとか言わなきゃ良かった、みたいな愚痴が飛んでくるかと思ったけど…
声のトーン的に意外と機嫌は良さそう。
氷乃瀬くんの横顔を見ながらホッと胸を撫で下ろした。


