リップを塗り直すためにパウダールームへ行くと、すでにふたりほど先客がいた。
見た感じ、わたしと同い年もしくは少し年上くらいで、このパーティーに参加してる人たちかな。
わたしは端っこの空いてるスペースを使わせてもらうことに。
鏡を見て、リップを塗ろうとしたとき――。
「深影くんが婚約するって噂ほんとなの?」
......一瞬、思考が停止して手が止まる。
「まあ、綺堂グループの御曹司だし、それなりの家柄のご令嬢と婚約するんじゃない? その相手が今日ここに来てるって噂だけど〜」
「わたし狙ってたのになぁ。ほら、深影くんって家柄もいいし、見た目も申し分ないじゃん?」
「あんなハイスペイケメンと婚約できるなんてうらやましい〜。あっ、そろそろ会場に戻らないとじゃない?」
ふたりが去っていったあと......。
「わたしなんて顔してるんだろう......」
鏡に映る自分の顔は、不安そうで......うまく笑えてない。
リップを塗り直すこともせず、会場にふらっと戻った。

