「リップが、う......っ」
「そんなの気にしてる余裕あるんだ?」
いつもより濃いめのリップを塗ってるから、深影くんにつかないか心配してるのに。
「さっき柑菜に触れる時間なかったし」
「だ、だから今はダメって......」
「じゃあ、夜は俺の好きにしていいってこと?」
深影くんは駆け引きが上手だ。自分の思うようにしちゃうんだから。
「......甘い柑菜で俺を満たして」
こんなのずるい。
騒がしい胸の鼓動を抑えられず、頬も熱を持ったまま。
このとき、まさかこの光景をそばで見ていた誰かがいたなんて、気づくことなんかできず――。
「綺堂のいちばん大切なものを奪ったらどうなるか――楽しみだな」
わたしたちを見て、そんなつぶやきを残している人がいたとも知らずに。

