君の手を

………


「結婚したいんだけど」

「ん?父さんがいつ反対した?それより本当に美容師になるのか?」

「ああ。悪い?」

「いや、けっこう」

祐太もついに所帯持ちかあ。馬乗りたいって泣きべそかいてたあの祐太が。

時の経つのは早いね、佳祐。

「本当に、時の経つのは早いな、真沙子」





………





「…健やかなるときも、病めるときも、汝これを愛し、死が二人をわかつまで、愛することを誓いますか」

「誓います」



立派だよ、祐太。





………





「なあ、父さんは母さんと結婚して幸せだった?」

祐太と佳祐は、お墓の前で花束を抱えて立っていた。
少し髪に白いものが混ざってはいるが、佳祐は相変わらず若々しい。あの時と何も変わっていない。

祐太は変わった。大きくなった。心配していた身長も高校からグイグイ伸びて、今では佳祐と同じくらいだ。

「幸せだった?いや、それは違うよ」

えっ?何を言うの?私の前で、佳祐、君は何を言うつもりなの? 


「幸せじゃなかったのかよ」

祐太が父親の顔を見つめた。佳祐も祐太を見返した。

そして両手、いつも私を優しく包みこんでくれた、その両手で、祐太の髪をクシャクシャにした。

「お前、俺の息子を何年やってんだよ、それくらい分からないのか」

「幸せだったんじゃ…」


「違う。だったんじゃない。今も幸せなんだよ。進行形でね。父さんは、真沙子と出会い、共に暮らした。そして、今だって、心は一緒に人生を旅しているんだ。ただ、真沙子は少し先に行って待っているだけなんだよ」

「なるほどね、ごちそうさま」

私も、幸せだよ………



………