君の手を

「どんな感じにしようか?」

「お任せします」


私は椅子に座り、カットの用意を始める佳祐の後ろ姿を見ていた。

ソファーには毛布をかぶってスヤスヤと寝息をたてている祐太がいた。


私は佳祐に最後のカットを頼んだ。


「思い出すなあ。佳祐に会いたくて毎月美容院に通ったこと…」

「勢い余って自分も美容師になっちゃうんだから、すごいよ」

カットを進めながら佳祐が話す。鏡ごしに目が合うと、佳祐はニッコリ微笑んでくれた。

「佳祐の傍に、ずっといたかったから」

「実は僕もあの頃から、君のことがずっと好きだったんだ。次はいつ来るのかな、とかいつも考えてた」


「そうだったんだ。初めて聞いたよそんなこと。私、ずっと私の一方的な思いだったのだと…」

「恥ずかしかったんだ、言うのが。でも、本当のことさ」

「嬉しいな」


その時、私は感じた。軽い眠気。もう、その時が近い。


「佳祐、祐太をお願いね」

「ああ、大丈夫。心配するな」

「ひよこラーメンばかり食べさせちゃダメよ」

「あはは。分かったよ」


………


[ここが新しい僕たちの城だ]

[素敵、やっと夢がかなったね]


………


「…真沙子、大丈夫?」

気を失い、夢を見ていた。
「うん」

「お客さん、こんな感じでどうですか?」

「うん、素敵!」

「よし!」

佳祐がポンと私の両肩を叩いた。それは佳祐のカット終了の合図。


触れた佳祐の手。とても温かい。


この温もりを、私はいつまでも忘れない。


例えこの長い夢が覚めたとしても……。





「真沙子?真沙…」

佳祐は静かに眠る真沙子に毛布をかけ、シートを後ろに倒した。

「帰ってきてくれて、ありがとう」

佳祐は真沙子の頬に口づけをして、言った。

「真沙子、いい夢見てね」

[佳祐もね]

二人で眠るときいつも掛け合う言葉。


佳祐には、その時も真沙子の声が聞こえたような気がした。