君の手を

「何か飲む?」

「うん、そうだね。喉かわいちゃった」

テラスから屋内に入ったロビーにはジュースの自販機があって、雅人はコインを入れて自分用にコーラ、そして私の為にアイスミルクティーを買ってくれた。

「ハイ、お前の好きなアイスミティー」

そう言って雅人は私に紅茶を手渡してくれた。

「ありがとう」

私はプルトップを開けて紅茶を一口飲んだ。雅人もコーラを喉に流し込んだ。

「うめえ!炭酸効いてるぜ!」

「美味しい!よく冷えてるよ」

私は直感で分かった。雅人はきっと私と特別な関係だったんだ。



次の日も、その次の日も、雅人は私の病院へ来てくれた。

だけど病室には入って来ない。彼はいつも私の入院している四階のロビーで私が出てくるのを待っていた。

「来なかったらどうするの?部屋に入ってきてもいいのよ」

雅人は少し照れながら言った。

「レディの寝室だしな。それに美里のご両親がいたりしてちょっと…」

「気にしなくていいんだよ。友達なんだから」

友達、という言葉を聞いて、雅人の表情から一瞬だけ笑みが消えた。彼はいつもニコニコしているから、そういう変化はすぐ分かる。

やっぱり、私たち、友達以上だったんじゃないかな。

聞きたいけど、ちょっと聞けない。それに雅人自身が全くそう言う話をしない。

ひょっとしたら、私の一方的な感情なのかも知れない。

雅人は本当に毎日来てくれた。私はお昼頃になると、そわそわと気持ちが浮き足立つのを自覚した。

少しだけ素っぴん風のメイクをして、ロビーに向かう。

今日もいた!雅人は、背もたれのないベンチに足をくんで座っていた。

「お待たせ」

「いやあ、別に待ってるわけじゃないぜ。ついでだぜ、ついで」

病院の四階に何のついでがあるんだろう。

「私が来なかったらどうするのよ」

「そんときは、きっと体調が悪いだろうから、このまま帰るよ」

「うわっ!それ何か私の責任重大だね」

雅人は私にまたミルクティーを買って、手渡してくれた。

「俺が好きでやってることだから、美里が気にすることはないよ」

雅人の『好き』という言葉に、私はドキッとした。


私はいつの間にか、雅人に心をひかれていた。