君の手を

「あっ!嘘だろ…」

佳祐が柵の横に立て掛けられた看板を見て呟いた。

私もその看板をのぞいてみた。

[ごめんね!ポニーのラッキーは、もうお年寄りなので、人を乗せることができません。]


「そんな…」

祐太はすでに馬を見つけて乗る気満々だ。きっとガッカリするだろうな。

「ごめんね祐太、このお馬さん、もうおじいちゃんだから、祐太を乗せられないんだって」

「いやだ!お馬さん乗るんだもん!」

祐太は泣きべそをかいて、大声でだだをこね始めた。

私と佳祐は必死に祐太をあやしたが、祐太の機嫌は治らず、立ち去ろうと引っ張っても、木の柵につかまって動こうとしなかった。

「弱ったなあ」

佳祐がそう言ってため息をついていると、馬小屋から飼育員らしき初老の男の人が出てきた。


「坊や、ポニーに乗りたいのかい?」

男の人は優しい口調で聞いてくれた。

「うん!お馬さん乗りたい!」

「じゃあ、乗るか!」

「わーい、やったー!」

男の人はそう言うと、木の柵を開けてくれた。


「いいんですか?」

私が聞くと男の人は私をじっと見つめた。

「お姉さん?」

「いえ、母です」

「うわっ!嘘っ!えらい若いな。あっ!失礼しました。私、ポニーの飼育員をしている棚橋です」


棚橋さんはそう言うと、かぶっていたヤンキースの野球帽を取って挨拶してくれた。

私たちもそれを見て慌ててお辞儀をした。

「棚橋さん、乗せてもらってもいいんですか?」

佳祐の問いに、棚橋さんは頷いて、ポニーのラッキーの肩をポンと叩いた。

「小学生とかはもう無理だと思うけど、この坊やくらいなら平気だよ。

以前は子供がいっぱい並んでたからね、はい、あんたはダメ、あんたはオッケー、とかやってるとブウブウ言われてね。それで乗せるのやめちゃったんだ」


「そうだったんですか」

「だけど、もう乗せなくなって一年くらい経つから、今は誰もこの馬小屋に来ないんだ。あなたたちはラッキーの久しぶりのお客さんだよ。ラッキーもほら、とても喜んでる」

その時、ラッキーがブルルと鳴いた。それはまるで本当に気持ちが通じているかのようだった。