私は玄関で大きく息を吸い込んで叫んだ。

「ただいま!」

「お帰り、真沙子」

「ママおかえりー!」


祐太と佳祐が私を迎えてくれた。


私に残された時間はあとどれくらいなのか分からない。

でも私は、最期の瞬間が訪れるまで佐藤真沙子として過ごすんだ。


もう後悔などしない。

「ママ、オムライス食べたい」

祐太が私の服の袖をひいた。祐太を見た。とても楽しそうな笑顔。

祐太の未来を考えると、一瞬気分が落ち込む。


ちゃんと暮らしていけるのかなあ。


「玉子がないわ。コープさんに買いに行こうね」


私たちは歩いて坂道を下り、私たちの美容院のある通りにある、小さなスーパーへ行った。

「玉子と…」

「デミグラスソース」

佳祐が買い物カゴにデミグラスソースを入れた。

「オムライス、オムライス!」

祐太が佳祐と私を交互に見ては微笑む。



幸せな家族の風景。


生き返った私がずっと求めていたもの。


以前は当たり前のように思って、何とも感じていなかった行為のひとつひとつが、私にとってかけがえのない、そして二度と来ない瞬間なのだ。

私は、涙が出そうなのを必死にこらえた。

楽しい思い出にしたいんだ。


波にさらわれるまでは、砂上の楼閣だって、立派なお城なんだよ。

佳祐もそれを分かってくれているのだろうか?


私は私よりだいぶ背の高い佳祐を見上げた。


佳祐は微笑みながら、頷く。


佳祐も分かってくれていた。