「あした退院だね」

佳祐は帰り仕度を始めた私を見てうれしそうに言った。

明日まで待つつもりはない。私には時間がないのだ。

「佳祐、お願いがあるの」

ん?何だい?と軽く聞き返してきた佳祐を見て、一瞬言葉を飲み込んでしまう。

でも、もう決めたんだ。後戻りは出来ない。

「今から、私を連れ出して」

「え?でも、明日退院じゃ?」

「もう、時間が…ないの」

微笑みながら話を聞いていた佳祐の表情がこわばった。

「うそ、だろ?」

「ううん。佳祐、私の病気のことよく調べたのなら、分かるよね?」


永遠とも思われるほどの沈黙。それは言葉が見つからないのではなく、本当に言葉を失ってしまったかのようだった。


「あと、どれくらい…」


「わからない。でも早ければ明日にも終わりが来るかも知れない」

「そんな…」

「だから私、ただその時を病院で待つのではなくて、佳祐と祐太と三人で過ごしたいの。だからお願い、ここから連れ出して」


「先生に治してもらおうよ。きっと治るよ」

涙目の佳祐は必死に訴えかけていた。

一度起きた奇跡。もう一度起きても不思議ではない。佳祐はそう思っているのだろう。

でも違うんだ、私にはようやく分かった。

すべての奇跡には意味がある。

私は何の為に生き返ったのか。


「佳祐、よく考えて。私の病気が治ると言うことは、私が消えてなくなる、ということなのよ」


佳祐は私の言葉を理解した。そう、それが私の運命。

「私に、ちゃんとお別れをさせて…」


私たちは病院を抜け出した。


もうあとには戻れない。



「ママー!」

祐太を抱っこしてチャイルドシートから降ろす。実家から祐太を引き取った私たちは、見慣れた我が家へと帰ってきた。


やっと帰ってきた。ここは我が家だ。そして目の前にいるのは、私の愛する家族。