佳祐の胸の中は今、私との人生の再出発のことで、夢と希望で満たされているのだろう。


一度は死別した妻が、生きて目の前にいる。佳祐の喜びははかりしれない。

祐太の喜びも。

姿形など、愛し合う二人や息子にとってはどうでもいいことだ。

三人で築き上げた思い出の城は、心でつながっているんだ。


確かに…


例えそれが、明日をも知れぬ命の砂上の楼閣であろうとも。


「問題は僕たち二人の関係をご両親がどう思うかだな。

はた目からみれば、子持ちバツイチの三十路男と、女子高生だもんなあ。

僕が父親なら、結婚なんか絶対反対だよ」


困ったなあ、と言いながらも佳祐の表情は明るい。

今起こっている奇跡の喜びに比べれば、そんな苦労など、どうと言うことはない。佳祐の目はそう語っていた。


「今度の日曜は予約を入れずにおやすみにしたよ。ゆっくり真沙子と会えるよ」

その日は入院して一週間後。


そして私が自分の運命を決めなければならない日。



佳祐に言うべきなのだろうか。



[薬を飲まなかった場合、君の体はよく持って半年。だがデータがあまりにも少ないから、ひょっとしたらすぐにダメになるかもしれない。

だが、これだけは確実に言える。君がこのままで、運命が君を見逃すことだけはありえない。死はいつか確実に訪れるんだ]

小西先生の言葉が頭に浮かぶ。


小西先生は、私が佳祐や祐太と会っていることを知っている。

その結果、私がとるであろう行動も、察しがついているだろう。


その気になれば注射か何かで、私が知らない内に薬を投薬することも出来るだろう。


だけど先生はそうしなかった。


先生がそうしないのは、先生が経験した悲しい出来事のせいだ。





「娘が別人になってしまった」

小西先生はその患者が虚心症であると見抜き、本人が嫌がるなか、無理やり投薬した。


彼女の中の別人格は消滅した。


両親は喜んだ。娘が帰ってきた。



一週間後、小西先生は、悲しみに打ちひしがれた両親と会うことになった。