君の手を

私はハッとして我に返った。これは私の記憶の一部なのかな。

「お母さん、私ってひょっとして美容師の卵か何かだったの?」

入院して何日か経って、ようやくこの人がお母さんなのだと言う実感がわいてきた。

「何言ってるの?あなたは普通の女子高生よ!」

外れた!私は自分を思い出そうと、思いついたことを色々お母さんに聞いていた。

当たることもあれば、全然見当外れの時もある。

先生によると、これは私の記憶が頭の中で整理されている証拠で、よい兆候なのだそうだ。

「ちょっと外の空気でも吸ってこようかな」

「そうね、そうするといいわ。あなたの体は順調に回復しているから、今はこれをしてはいけません、というのは無いのよ」



そうか、私の体は治ったんだ。病気なのは、心の方。

私は病室を出て、病院のテラスに向かった。私の入院している病院は地域でも最大規模の総合病院だ。私の手術は心臓移植という難易度の高い術式で、それを行える設備と医師が備わっているこの病院を両親が選んだのだ。

私は外へと通じる扉を開け、屋外へ出た。モワッとした夏の湿った暑い空気が私にまとわりついた。

「暑いなあ」

「そりゃあ、夏だからな。暑くて当然だろ」

私は背後から私にそう話掛けた人を振り返って見た。

背が高く、髪は短く立っていてちょっとヤンチャな感じの男の子。歳は私と同じくらいかな。

私はこの子を知ってる!でも…誰だっけ?

「やっぱり、俺のことも忘れちゃったの?」

男の子の表情が曇った。とても淋しそうな目。

「ごめんなさい。でも、私、君のこと絶対知ってる。何となくそんな感じがするよ」

男の子の表情にパッと花が咲いた。

「俺、小西雅人!美里の同級生で、親友さ!」

「そう。何となくそれ本当な気がするよ」

「うわっ!他人事感抜群!凹むなあ」

雅人はそう言うと元気よく笑い、白い歯を見せた。本当にさわやかで、感じのいい子だ。