「ママ!」

「祐太」

祐太は病室に入るなり、私に飛び付いてきた。

入院して五日目、祐太とはもう六日も会っていなかった。

「淋しかったね、ごめんね」

「ママ、もうどこにも行かないで」

祐太が涙目で訴えた。

私のかわいい祐太。


「退院したら、真沙子の、いや、美里のご両親に挨拶するよ」


………


もう一度、結婚して三人で暮らそう。



佳祐は、私が秘密を明かしたあの日、私にそう言ってくれた。そして、懐から出してきたのは…


佳祐が私の誕生日にプレゼントしてくれたピンクゴールドのリング。


「置いていてくれたんだ」

「ああ。僕の時間は、真沙子を失ったあの日のまま、止まっていたんだ」


佳祐はそう言うと、私の薬指にリングをはめた。


「だけど今、動きだした」

私と佳祐は熱いキスを交わした。



その瞬間、私の脳裏にある記憶が鮮やかに甦った。


この病室の、このベッドの上で、私は雅人とも愛し合ったんだ。



私を愛してくれる人すべてを裏切る私。

やはりそれに相応する罰が、私のこの運命なのだろう。



………



「挨拶するのは、待って。もう少し落ち着いてからの方が」

「そ、そうか、そうだよな」


佳祐には話していない。私の命に限りがあることを。

「ママ、オムライス作ってー!」

「あ、祐太、オムライスって言えるようになったんだ」


私は祐太の頭をなでた。


この子を残してなんて、逝けない。逝きたくない。



私の運命の選択肢は、そのすべてが矛盾していた。



「入院、一週間くらいになる、て聞いたんだけど」

「うん。多分、そんな感じ」

「今度は絶対無理したらダメだよ。しばらく実家でゆっくりしてて。僕が頃合いを見て迎えにいくから」


こんなに楽しそうな佳祐の表情を見るのは久しぶりだなあ。