「えっ?佳祐さん、何を…」


「美容師の技術は、見よう見まねで出来るような簡単なものじゃない。真沙子はさらにその中でも高い技能を持っていた」

佳祐、あなたは何を言おうとしているの?

「君の手さばき、道具の使い方。いや、普段の会話、僕の家での立ち居振る舞い…他人だと言う方が無理がある」


佳祐はまっすぐ私の目を見つめた。


「君は真沙子だ。そうなんだろ?」


「私は片桐美里…」

「僕は真沙子が逝ってから、心臓移植について勉強した。真沙子の命はどんな風に役立っていくのだろう、そのことが知りたくてね」

佳祐の目を真っ直ぐ見れなかった。

私の心は佳祐にすべてを打ち明けろと私に迫った。


「君の主治医が葛西先生だと聞いて、もしやと思った。果たして、そうだった。君の心臓は真沙子の心臓だ」

「真沙子さんは、死にました」


「ああ。肉体はね。だけど、心はここにいる」


佳祐は明らかに冷静さを欠いていた。正にワラをもすがると言った感じだ。


「そして、小西先生の姿を見て僕は確信した。あの先生は虚心症の権威だからね」


佳祐はすべてを知っていた。

真沙子の死を受け入れられない佳祐の心は、世間に噂される奇跡が真沙子の身にも起きて欲しいと願い続けていたのだ。


そして、その奇跡は今、私の中で起きている。



「佳…祐…」


佳祐が驚きの目で私を見た。


「真沙子…」

「佳祐、真沙子だよ。ずっと、打ち明けたかった…苦しかったよ」


言葉と一緒に、私の両目から涙が押し出された。

留まらず、次々と頬を伝う。


「お帰り、真沙子」

「うん」


佳祐は私を、暖かい手で優しく抱きしめてくれた。