「あ、美里ちゃんおはよう」

佳祐は私が起きたのに気付き、私に声をかけた。


さっき佳祐は、私の事を真沙子と呼んだのではないだろうか。


夢だったのかなあ。



「外で目が覚めるの待ってたら、お母さんが中に入っていて、て言ってくれて。考えたら、レディの寝室に勝手に入って失礼だったよね、ごめん」

「ううん、ただ寝てただけだから全然平気ですよ」


「ごめん」

「いえ、そんなに気にすることないですよ」

「僕が病み上がりの美里ちゃんに無理させたから、こんなことに…」


「あ、そっちの方はもっと気にしなくていいですよ。私が好きで働いていたんですから」


「心臓移植…したんだって?」

「えっ?どうしてそれを」

「お母さんから聞いたよ」

そうか。お母さんが話しちゃったんだ。

私の胸の内に暗い不安の影が広がる。


「お母さんとお話して、いろいろ聞いたよ。美里ちゃんが、まだ高校生だと言うことも…」

佳祐の口調は、嘘をついていた私を責めるというより、信じられない事実をひとつひとつ言葉に出して確認しているかのような口ぶりだった。


「美容師の経験も…ないんだって?」


何もかも知られてしまった。



「ごめんなさい」



病室を沈黙の空気が満たす。なぜか問いただす立場の佳祐も、何かをためらうように静かに押し黙った。


そして永遠とも思える静寂の後、佳祐は重い口を開いた。


「君は…真沙子じゃないのか?」