朝まで雅人の部屋にいた私は、雅人の診察の時間が来たので自分の病室に帰った。

雅人は毎日決った時間に体のチェックをされているらしい。

小西先生の指示のもと、様々な化学物質が投与されたり、刺激が与えられたりしている。

「見ているとけっこう痛々しいから、見ない方がいいよ」

小西先生からそう言われたこともあり、私は自室に戻り、少し眠ることにした。

私自身には、体調の変化はまだなかったが、さすがに寝不足ということもあり、私は横になるとすぐ深い眠りについた。




[真沙子、真沙子なんだよな?]


夢の中で響く佳祐の声。


[会いたかったよ]


佳祐が私を呼ぶなんて、きっと夢に違いない。私は夢の中にいながら、夢であると気が付いた。



こんな話があったっけ。


ある人が蝶になる夢を見た。

そしてふと思った。

これは本当に私が見た夢なのか。実は、逆ではないのか、と。


蝶が見た夢こそが私なのかも知れない。

人が蝶になった夢を見たのか、蝶が人の夢を見たのか。


正に、今の私だね。


私にとって現実の世界とは、いったいどこなのだろう。


その時私の夢は、ゆっくりと覚め始めた。

夢の終わりが近づいているのを自覚する妙な感覚の中で、私は静かに目覚めた。

「真沙子…」

夢から覚めた私は、実際に佳祐の声が聞こえて驚いた。


ゆっくり目を開けると、私のベッドの横に置かれた丸椅子に、佳祐の姿があった。