君の手を

…私と雅人が離ればなれになったあの夜の出来事…





「ただいま」

「おー、おかえり兄貴」

幸人は弟の雅人の顔を見てすぐにピンと来た。

テーブルの上に目をやると、そこには幸人がこの前、ゴルフコンペの景品でもらってきたブランデーがあった。

「お、この未成年、飲酒とは不良な奴だな」

見るともう3分の1ほどしか残っていない。

「ふ、不良でけっこう」

「いや、良くないね。第一、俺を誰だと思ってるんだ?医者の前でやけ酒とは大それたことをしてくれる」

雅人はうつろな視線を幸人に向けた後、ほっといてくれと言い、グラスに新たにブランデーを注いだ。

「失恋でもしたか少年?」

幸人がそう言うと雅人は赤い顔をさらに赤らめて俯いた。


「何だ図星かあ。それにしても急だな。お前たちうまく行ってたじゃないか」

幸人は弟に彼女が出来た事を知っていた。確か美里とか言う子だ。


「美里はずっと俺と別れたかったんだ。だから俺に嘘をついたんだ」

「嘘をついた?」

「ああ。俺は裏切られたんだ」

「裏切る?聞き捨てならんな。雅人、ちょっと俺に経緯を話してみろ」



雅人は今日あった出来事を、幸人に詳しく話した。

二人はとても仲が良かったので、雅人は包み隠さず報告した。



「結論から言うと、彼女の記憶はまだ混乱している。
混乱していれば、雅人の記憶はなくても別のAという人の記憶だけが蘇ったりする。

彼女は嘘なんかついていない。そしてきっと苦しんでいる。

お前、彼女を愛しているのだろう?そう言う時はお前が彼女を支えてやれよ」


「分かった。明日仲直りする」

「よし!それでこそ我が弟だ。男を上げてこい!」

「オウ!」

「あ、その前に乾杯といくか」

幸人は食器棚からクリスタルグラスを二つ取出しテーブルに置いた。

「俺コップあるよ」

「お前のそれはダメだ。だいたいコップって…大人の男になった元服式だ、グラスで飲めよ」 


「だいたい、医者が未成年に酒勧めていいのかよ」

「酒は百薬の長だからいいんだよ。医師の監督の元なら許可する」




「乾杯!」

「乾杯!彼女を大切にな」