君の手を

「私たちのこと、知ってるんですよね」

仲の良い兄弟だ。私の話を雅人がしていても不思議ではない。

「雅人から聞いてるよ」


会話はそこで途切れた。何か気まずい雰囲気になってしまった。聞くんじゃなかったかな。

「美里さんには、雅人の為にも元に戻って欲しい」

「私、雅人に嫌われたんです。実際、それだけの事をしたのは私なので仕方ないんですけど」

小西先生は何故かとても悲しそうな表情を浮かべ、私を無言で見つめた。

しばらくの沈黙のあと、小西先生はコーラを一気に飲み干した。

「クーッ!炭酸効いてるぜ」

「あはは。やっぱり兄弟なんですね。そういう仕草そっくり!」


「美里さん?」

「はい?」

小西先生は怖いくらい真剣な眼差しで私を見た。


「今でも雅人が好きかい?」



「はい」

「佐藤真沙子となった今でも?」


「ええ。上手く言えないんですけど、私という人間が、彼を好きなんです」

「旦那や子供よりも?」


佳祐、祐太。そう、私には大切な二人。私って、何て罪深い心を持っているのだろう。


「分かりません。私には、私自身がよく分からない。でも、雅人にはもう嫌われてしまいました。彼はもう帰ってこないと思います」



「もしそうじゃないとしたら?今でも雅人が君を待っているのだとしたら、戻ってきてくれるかい?」


「どういうことですか?」


小西先生は、しばらく考えこんだ後、私に言った。


私の運命の止まっていた最後の歯車を、再び動かしたあの言葉を。


「雅人は、今この病院に入院していて、まもなく最期の時を迎えようとしているんだ」