小西先生は、私の説得を諦めたのか、話題を変えた。

「私の最初に見た患者は、両親に無理やりこの薬を飲まされ、不幸な結末を迎えたんだ。あれ以来、私はこの病気の患者とは、一対一で向き合うと決めた」


小西先生はそう言うと、テーブルに置いてあった薬の瓶を自分の懐にしまった。


「幸い君の場合、あと一週間くらいは猶予がある。ここに入院して、じっくり考えて欲しい。そして、最後の結論は自分で出して」


小西先生は私の目をじっと見つめた。


「佐藤真沙子として死ぬか、片桐美里として生きるかをね」

「先生…?」

「これは秘密のカウンセリングだ。最終的に君がどちらを選んでも、私が責任をとる。致死性と言っても、だましだましやれば半年くらいは生きられるだろう。だが治すのなら、一週間後がギリギリリミットだ。それ以上放置すると、脳が不可逆的な反応をして、おそらく根治は不可能になるだろう」


期限は一週間。


私が私のままいれば、確実に死が訪れる。それは恐ろしい。

だが薬を飲んで、私ではない誰かが助かっても、結局私は消滅してしまう。


どうしたらいいの?


「入院の手続きと、ご両親へその旨を伝えておくよ。私は医師としては、君が薬を飲んでくれることを望む。冷静になって、よく考えてくれ」


私はそのまま入院することになった。両親には、二人がした会話の内容は伝えられずに…。