心臓がバックアップした記憶を脳に返そうとした時、脳そのものが入れ替わっていたらどうなるか?
逆の言い方をした方が分かりやすいだろう。
心臓が情報を持ったまま、誰かに移植されてしまったら……。
「心臓はその時非常に混乱する。そして、以前の脳波と違う脳に接した心臓はこう判断する…」
脳に異常あり。心臓にストックした情報をもとに脳内の記憶を再構築せよ。
「ほとんどの場合、この脳と心臓のせめぎ合いは、脳側の勝利に終わる。それがレシピエントに微かに残るドナーの記憶の正体だ」
心臓の記憶。私の心は、ただの『誤情報』だと言うの?
「だが君の場合は、私が昔看た患者と同じで、心臓側が勝った例だ。そしてこれはとても深刻な事態を引き起こす」
心臓がいつまでも脳の代わりをすることで心臓に多大な負担がかかり、やがて心筋梗塞などの発作を起こす。
そして脳の方は…
「次第に機能が低下していき、最後には、脳死してしまう」
それは致死性の病、脳機能不全。
「私どうしたら…」
「私は最初に言っただろ?君の場合はまず間違いなく助かる。手遅れになる前でよかったよ」
小西先生は懐から小さな瓶を取り出して私に手渡した。中には透明の液体が入っている。
「それは強力な強心剤だ。それで心臓は記憶を放棄して、元の役割に戻る。美里さん、君の病気は意外にも飲み薬で治るんだよ」
飲むと、心臓が記憶を放棄?
佐藤真沙子の心は心臓の中。
これを飲めば、私は、死ぬ…。
「いやっ!」
私は目の前のテーブルに薬を乱暴に置いて、手で押し退けた。
ヒステリックに大声をあげた私を、小西先生は優しい目をして見つめ、静かに話した。
「君は夢を見ているだけなんだよ。別人になりきってはいるが、君は片桐美里だ。何も恐れずに、薬を飲んで欲しい」
「薬を飲めば、私は死ぬんでしょ?今の私が、消えてなくなるんでしょ?」
先生の言っていることはよく分かる。
だけど今ここで物事を考え、話しているのは、佐藤真沙子だ。
この心が消えて無に帰すなんて…
「やっぱり、すぐには無理か。君とだけ話をして正解だったよ」
逆の言い方をした方が分かりやすいだろう。
心臓が情報を持ったまま、誰かに移植されてしまったら……。
「心臓はその時非常に混乱する。そして、以前の脳波と違う脳に接した心臓はこう判断する…」
脳に異常あり。心臓にストックした情報をもとに脳内の記憶を再構築せよ。
「ほとんどの場合、この脳と心臓のせめぎ合いは、脳側の勝利に終わる。それがレシピエントに微かに残るドナーの記憶の正体だ」
心臓の記憶。私の心は、ただの『誤情報』だと言うの?
「だが君の場合は、私が昔看た患者と同じで、心臓側が勝った例だ。そしてこれはとても深刻な事態を引き起こす」
心臓がいつまでも脳の代わりをすることで心臓に多大な負担がかかり、やがて心筋梗塞などの発作を起こす。
そして脳の方は…
「次第に機能が低下していき、最後には、脳死してしまう」
それは致死性の病、脳機能不全。
「私どうしたら…」
「私は最初に言っただろ?君の場合はまず間違いなく助かる。手遅れになる前でよかったよ」
小西先生は懐から小さな瓶を取り出して私に手渡した。中には透明の液体が入っている。
「それは強力な強心剤だ。それで心臓は記憶を放棄して、元の役割に戻る。美里さん、君の病気は意外にも飲み薬で治るんだよ」
飲むと、心臓が記憶を放棄?
佐藤真沙子の心は心臓の中。
これを飲めば、私は、死ぬ…。
「いやっ!」
私は目の前のテーブルに薬を乱暴に置いて、手で押し退けた。
ヒステリックに大声をあげた私を、小西先生は優しい目をして見つめ、静かに話した。
「君は夢を見ているだけなんだよ。別人になりきってはいるが、君は片桐美里だ。何も恐れずに、薬を飲んで欲しい」
「薬を飲めば、私は死ぬんでしょ?今の私が、消えてなくなるんでしょ?」
先生の言っていることはよく分かる。
だけど今ここで物事を考え、話しているのは、佐藤真沙子だ。
この心が消えて無に帰すなんて…
「やっぱり、すぐには無理か。君とだけ話をして正解だったよ」

