「初めまして。脳神経外科で、脳科学の研究をしている小西幸人と申します」

小西!そうだ、この人、雅人に似ているんだ。


「あ、美里さん、分かりましたか?そうです。私は雅人の兄です」

「雅人くんの?」

お母さんはすぐに反応した。お父さんもピクリと顔を引きつらせたが、言葉に出して何か言うことはなかった。

正直私も驚いた。

雅人にお兄さんがいることは、雅人から聞いて知っていたが、お医者さんだとは知らなかった。


「美里さん、突然で何が何だか分からないだろう。私が君の今の状態を説明するから、しっかり聞いていてくれ」



『脳機能不全』



それが今の私を蝕んでいる病気だった。


「脳機能不全は、脳の一部が突然活動をやめて、その部分の神経組織が死んで失われていく病気です」

小西先生は私と両親に、学校の先生の様に分かりやすい説明で、解説を始めた。


脳機能不全は、心臓移植をした人の中に極まれに見られる病気だという。


放置していれば症状は進行し、確実に死に至る。


小西先生は、この病気を専門に研究しているということだった。


確実に死に至る…私の頭の中にその言葉が何度も響いた。


「だけど、不治というわけではありません。私はこの病気を専門に研究していて、豊富なデータを持っています。美里さん、君の場合は、まず間違いなく助かるよ」


小西先生の言葉を聞いて、お父さんとお母さんはホッとした様子を見せた。

二人の表情に血の気が戻る。


「ですが、治療にあたって大変重要な問題があります」

安心して大きな声で会話を始めた両親を、小西先生はそう言って制した。

「その問題を見極め、解決するには、私と患者さんの二人だけで行うカウンセリングが必要です。容易に治療できるかどうかは、その結果次第です」