君の手を

「じゃあ、今から帰りますから」

佳祐の帰るコールが入った。佳祐の自宅は、店から実家とは反対方向に同じくらいの距離、つまり車で5分といったところである。

少し山の手にあるので歩くと息が切れるが、車ならあっと言う間だ。

私は電話を切ると、急いで夕飯の仕上げをした。

今夜はオムライス。材料は運良く全部家にあった。

祐太は熱もひいてすやすやと寝息を立てている。起きたら食べれるかな?今夜は無理かな。無理ならお粥でも作ろうかしら。


「ママ、ご飯ーっ!」

起きてきた。

「おえーってなりそう?」
「大丈夫さあ!ああ!オムライ!」

ちょっと違うけどオムライスのことだ。それは祐太の大好物。

「オムライ食べる!」

「オッケー!じゃあ食べましょう!もうすぐパパ帰って来るから一緒にね!」

「うん!」

祐太は本当に幸せそうな笑顔で微笑んだ。だいぶ元気になったみたい。



車のエンジン音と、ドアを閉める音がした。

ピンポーン♪

「パパ帰って来たよ!」

私と祐太は玄関に行き、扉を開けた。そこには笑顔の佳祐。

「ただいま!おう祐太、元気になったか?」

「なったー!」

佳祐は祐太を抱き上げるとおでことおでこをくっつけた。

「お!熱はないみたいだな」

「おかえりなさい。祐太くん、熱は下がりました。食欲もあるみたい」

「よかった。今日は本当にありがとう」

その時祐太の視線が佳祐に釘付けになった。

「祐太?どうかしたの?」
私がそう言うと今度は私の方を見て首を傾げた。

「ママ、パパにお帰りのチューしないの?」


ええーっ!?


確かに以前は毎日欠かさずしていたけど。

「ケンカしたの?」

子供ながらすごい観察力だ。

私と佳祐の間に妙な空気が流れた。

「今日はチューお休みなんだよ。風邪ひいてるからね。パパに移るといけないから」

「そ、そう。また今度」

佳祐もシドロモドロ。

「祐太、本当に君をママ扱いだな」

「子供って不思議ね」

不思議だ。でもその時私は確信した。

何故だか分からないけど、祐太には私が分かっている。