君の手を

家についた私は、先ず祐太を寝室に寝かした。祐太も疲れていたようで、すぐにすやすやと寝息を立てて眠ってしまった。

私は寝室を見回した。以前と変わらぬ風景。

私の化粧台もそのままになっている。



そのまま……。



私はふとある事を思い出して、化粧台の引き出しを開けた。


やっぱりあった!


私は引き出しから一つの指輪を取り出した。

ピンクゴールドのファッションリング。

私たち美容師は、職業上仕事中は指輪をはめない。私が倒れた時も帰宅直後だったから、指輪はここに入れたままだったみたいだ。

私は手にとって指にはめてみた。


こんなことって!!


指輪は、今の私にもピッタリだった。佐藤真沙子と片桐美里は、同じ9号だ。

私は薬指にはめた指輪を見つめた。この部屋でこんなことをすると、自分が死んだと言うことが、悪い夢だっただけで、私はただ寝呆けているだけなのではないかという錯覚に襲われた。

だが、ふと化粧台の鏡に移した視線の先に映し出された自分の姿は、私を錯覚から目を覚まさせた。



「神様、ひどいよ」



佳祐と祐太から離れたくないと思った。私の心は再びこの世に戻り、確かに私の望みはかなったといえる。

この苦しみは、奇跡の代償なの?


ならば、あのまま死なせてくれた方がよかった。何も知らないままに…。


「ママ…」


その時祐太が寝言で私を呼んだ。私は祐太の頭をそっと撫でた。祐太は眠りながら笑顔になった。

祐太は、私が母親だと分かっているのかもしれない。

もし、そうだとするのなら、今私がこうしてここにいることにも、意味がある。

祐太のためなら、この地獄、生き抜いてみせる。