「よかった、来てくれたんだね」

佳祐は私を明るく出迎えてくれた。

私は美容院で働くことにした。両親にはまだ話せていないが、学校は辞めようと思っている。

全く妙な感覚だけど、一応生前高卒だし。それに学校は知らない人ばかりだし。
現実逃避といえばそうなのかもしれない。


「あの、履歴書とか要りますか?」

「うん、あった方がいいけど」

困ったなあ。そんな私の顔を見た佳祐は、心配そうに私を覗き込んだ。

「体調、大丈夫?」

調子が悪いと勘違いしたようだ。

「大丈夫です。実は、私のかかった病気、記憶障害と言って、過去のことがあまり思い出せない病気なんです。だから、履歴書は……」

私の話はあまり上手じゃなかったので、佳祐は納得したわけではなかっただろう。だけど佳祐は、

「まあ、今さら履歴なんて要らないか」

と言って、それ以後私の素性について何も聞かなかった。

「佳祐さん、よろしくお願いします。でも、ブランクがあって色々不安なので、初めはアシスタントに撤します」

「うん、じゃあお願いします」



実際のところ、私は真沙子だ。佳祐をこの店でずっと助けてきた。正直分からないことは何もなかった。

「あれ?新しい子雇ったの?随分と若いわね」

お店に来たお客さんは、はんで押したように同じような反応をした。

「あ、こう見えても27です」

「え!?うそっ!化粧品なに使ってるの?」

うーん、最初についた嘘のせいで苦しい嘘が続く。

確かに27でこの肌だったら、何か秘密のエステでもしているのではないかと疑うのも無理はない。


「生まれつき童顔で…」

だけど、おかげでお客さんとは会話がはずむ。


常連さんは、真沙子のことで、皆佳祐を心配していた。

私も知っている人が多いから、ついつい一緒に話したくなるが、それだけは話がこじれるので自制した。