「ありがとうございました」

「気に入ってくれてホッとしたよ。実は美容師って聞いたから少し緊張していたんだ」

この謙虚な姿勢が佳祐の良いところ。


「じゃあ、お店閉めるから、ちょっと待っててね」

佳祐はそう言いながら、店じまいを始めた。


「お仕事は午前中だけなんですか?」

「うん。まあ時には昼すぎてもやるけど、祐太のお迎えとかあるしね。それに食べていくだけなら、それで十分なんだ」


やっぱり祐太のことを考えてのことだった。

「アシスタントは?雇わないんですか?」

佳祐は一瞬作業をやめて、私の方を振り向いて言った。
「真沙子と二人で始めたこの店に、誰も入れる気がしなくてね。何か思い出まで壊れそうで」

「ご、ごめんなさい…なのに私、ここでカットなんかして」

佳祐は明るく微笑んでみせた。

「君は特別だ。真沙子もきっと喜んでくれたと思う」