君の手を

「真沙子、誕生日おめでとう」

佳祐がくれたのは、私の好きな黄色い花がたくさん入った花束だった。

それと同時に、小さな箱も手渡された。

「僕の気持ちだよ」

「指のサイズ覚えてたの?」

「あたりまえだろ」

かわいい、ピンクゴールドのリング。私は早速左手の薬指にはめてみた。

すごい、ピッタリだ!

「ありがとう!なんか、恋人同士みたいだねー!」

寝室ではスヤスヤと眠る祐太。

「いつまで経っても、二人、おじいさんとおばあさんになっても、ずっと恋人同士でいたいね」

「うん!まわりの方が恥ずかしがるほど仲の良いおじいちゃんとおばあちゃん!素敵ね!」

何も高望みじゃない。誰もが手にしていいはずの小さな幸せ。


もう、手に入らない……


ああ、夢がさめてしまう。
私は自分が夢を見ていることに、夢の中で気が付いてしまった。


手を伸ばせば届くところにいる佳祐と祐太。
夢は覚め始め、私の幸せな時間は、幻となって消えていく。

「待って!佳祐、祐太!」
私は佳祐の肩を掴んだ。立ち去ろうとしていた佳祐が、私の方に振り返った。

「君は、誰?」

「え?私よ、真沙子。忘れてしまったの?ずっと一緒だと言ってたのは、嘘だったの?」

「確かに、君は真沙子の命を受け継いだ。でも、君は真沙子じゃない」

「受け継いだ?どういうこと?」

「君は君の人生を生きて。さようなら、真沙子…」

佳祐はそう言うと、目の前に現れた棺に、黄色い花束を添えた。そして、そっと、その中に横たわる亡骸に口付けをした。


大きな、車のクラクションの音。


霊柩車は多くの喪服姿の人びとの中心から、静かに走りだした。