君の手を

「古い馴染みって…記憶、あるんじゃん。何で嘘つくの?俺と別れたかったの?そんなことで親まで巻き込んで…お前、サイテーだよ」


「違うの雅人、聞いて!」

「もう、いいよ」

雅人は家の扉を後ろ手で閉めると、バイクに乗って帰ってしまった。

何て言ったらよいのか分からなくなった私は、それをただただ見ているしかなかった。

実際には意味が違っていても、雅人に嘘をついてしまった事は事実だ。

雅人が怒るのも無理はない。

だけど、本当のことを言ったとしても、決して信じてはくれないだろう。



信じてはくれないかも知れない。でも、話してみよう。

このままだったら、私は雅人を失ってしまう。

どうせ駄目になるなら、すべてを伝えて、後悔のないようにしよう。

皮肉にも、私にそう決心させたのは、少女の心ではなく、私の中にある恋愛経験豊富な大人の女の心だった。


私は雅人にメールを送った。


私の心。そしてその中に存在する佐藤真沙子のこと。

そして、今も変わらず雅人を愛していること。

私は思いの丈をメールに込めて、送信した。


返信など期待していない。ただ、雅人には本当の事を知っていて欲しかった。


私は携帯を机の上に置いて、体をベッドの上に投げ出した。

緊張の糸が切れたのか、一気に疲れが出て、眠くなってきた。

私はいつの間にか深い眠りの世界に入っていった。