君の手を

ピロリン♪


メールがきた。私はそっと携帯を開けて、雅人に気付かれないようにメールを見た。

[美里さん、いろいろとありがとう。おかげでなんとか立ち直れました。今日から営業再開します。今度またお店に来てくださいね。サービスしますよ!]

佳祐からだった。そうか、お店再開したんだ、よかった。


「誰から?」

雅人が私の携帯の画面を横から覗き込むように見た。
「お、お母さんだよ!」

私はシドロモドロになって言った。

「怪しいなあ」

「な、何が?」

「そんなにしょっちゅうお母さんとメールで何話してるんだよ」

「何だっていいじゃん」


「じゃあ、ちょっと見せてよ」

「えっ!?」


「お母さんのメールなら問題ないっしょ?」

「だ、ダメ!」

「何で?怪しいなあ…」

次の瞬間だった。

雅人は私からすばやく携帯を奪い取った。そしてニヤけながら画面を見た。

きっと冗談のつもりだったのだろう。

私を信じていた雅人は、メールの中身を見て表情を変えた。


「佳祐って…誰?」

見られてしまった。頭の中が真っ白になった私の口から出た言葉は、ひどい罵りの言葉だった。

「勝手にひとのメール見るなんて最低」

雅人は私の言葉に怒ることなく聞き返した。

「悪かった。ごめん。でも、これはどういうこと?今、文面まで見えたから、浮気とかじゃないって分かったけど。ちゃんと説明してよ」

すごく冷静な雅人。

「その佳祐という人は、私の行きつけの美容院の店長なんだ。絶対に怪しい関係じゃないよ」

本当に佳祐と、(今の)私には何もない。私は雅人にそれを信じて欲しくて、懸命に言い訳をした。


だけど、その言い訳は、的外れだったみたい。


雅人は私の言葉を黙って聞いてくれた。だがその表情には暗い陰が出来ていた。

私の話を聞いたあと、雅人は静かに帰り支度を始めた。

「え?ちょっと待ってよ、帰っちゃうの?私の話聞いてた?佳祐さんは古い馴染みの人というだけで何でもないんだってば!」

雅人は振り返って私を見つめた。その瞳に怒りの色はなく、ただ、深い悲しみを含んでいた。