君の手を

「美里、今日からお父さん出張で金曜の夜まで帰らないから。それで実は母さんも明日同窓会だから、今夜東京に行かないといけないのよ」

「平気だよ!いってらっしゃい!」

「母さんあんたが心配なの。一人にして大丈夫かしらって」

「大丈夫だよー!子供じゃないんだから」

「子供です!それにまだ記憶も完全には戻ってないし。だから私、お留守番を頼もうと思って」

「え?誰に?」

ピンポーン。その時家のインターホンが鳴った。


「こんにちは!」

「あ、雅人くんいらっしゃい。今日はよろしくね」

「はい!」

「え!?留守番ってもしかして雅人?」

お母さんはニンマリと笑いながら頷いた。

「お父さんが知ったら卒倒するよ」

大胆過ぎるよお母さん!

「記憶のない今、雅人くんは安心できる家族みたいなものだからね。母さんは雅人くんを信用してるし。頼むわね、雅人くん」

「はい。任せて下さい」

こうして雅人には、お父さんに絶対極秘の任務が言い渡された。


「いってらっしゃーい!」
お母さんは私たち二人を残し、同窓会に行った。

「今日は帰る時間気にしなくていいね!」

「おう!でも美里は無理するなよ。俺は美里が心配だから泊まるけど、なんなら別の部屋で寝るからな」

どこまでも優しい雅人。それに比例して深く、大きくなる私の罪悪感と雅人への思い。

「ありがとう」

私はそれしか言えなかった。


「またDVD借りてきたぜ。今度は、パート2!」

私たちは二人で今日も映画鑑賞だ。

雅人はまた私にミルクティーと、自分にはコーラを持ってきた。もちろんおやつはポップコーン。

穏やかな、何の不安もない恋愛。


だがそこに嵐はやってきた。