君の手を

雅人を見送ってから自分の部屋に戻った私は、早速携帯を開けた。

ずっとしたくて、でも抑えていた衝動を、ついに抑えられなくなった。

[佳祐さん。私は真沙子さんの友人で、美里と言います。生前、真沙子さんとは親しくさせていただいておりました]

私は返事を書いて、メールを送信した。本人の記憶があるとか言っても信じてもらえそうもないし、私は片桐美里として接することにした。

ピロリン♪

すぐに返事が来た。佳祐も仕事をしていないみたいだし、暇なのかも知れない。
[そうですか。美里さん、励ましの言葉、ありがとうございます]

[奥さんいなくなって大変だと思います。あまり無理はなさらないでくださいね。祐太くんのこともあるし、佳祐さんの体は一人のものではありませんから]

[そうですね。実際、食事とか大変で。家のどこに何があるとかも全然わからないし、けっこう困ってます(笑)]


佳祐は精一杯平静を装ったメールを送ってきたが、それが逆に今の彼の苦労を容易に想像させた。

[祐太くんは大事な時期だから、ひよこラーメンばかり食べさせちゃダメですよー!]

私がそうメールで返事したあと、佳祐は何分も返信してこなかった。

…もう終わっちゃったのかなあ…

そう思いかけた時、また携帯がメール到着を電子音で告げた。

[美里さんは、本当に真沙子と親しかったのですね。ひよこラーメンのことまでご存知だとは驚きました]

[そう。仲がよかったんです。真沙子や、あなたのことや、祐太くんのことなら、何でも知ってますよ!]

[すごいですね!じゃあ、保険証がどこにあるか教えていただけますか?て、冗談です。しかし、本当に何も分からない自分が情けない]

そうか、祐太はもうすぐ三歳検診日だ。

[保険証は五月人形の乗っているタンスの一番上の引き出しの中です。赤い小さな箱の中]



[本当にあった…]

[三歳検診、お願いしますね]

[本当に何でも知ってますね。あなたは何者?]