君の手を

ピロリン♪

誰かからメールが来た。入院中記憶がなくなってから、友達からのメールは全く入らなくなっていた私にメールが来るのは珍しい。今送ってくるのは、雅人かお母さんだ。

お父さんは日中、仕事中には絶対メールしてこないし。

「きっとお母さんだ」

私は実際お母さんからだと思い、その場で不用意に携帯を開けて、メールを見た。


[昨日は励ましのメールありがとうございました。ただ、失礼の限りですが、あなたがどなたか分かりません。お名前を教えていただけますか?]

佳祐からだ!返事が来た!

「誰から?」

そう言って携帯を覗こうとした雅人に私は驚いて、咄嗟に携帯を体の後ろに隠してしまった。

「な、何でもないよ。お母さんからだよ」

「何か怪しいリアクションだな。で、お母さんは何て言って来たの?」

「夕飯はどうするの?て聞いてきたの」

「どうする?食べて帰る?」

「ううん。うちで食べる。お父さんが心配するから」
雅人は少し考えるようにうつむいて黙ってしまった。
「ごめん…ね」

私が雅人を顔の下から覗き込むと、雅人はハッとして私を見た。そして力なく微笑んだ。

「俺もまだまだ人間が出来ていないなあ」

「えっ?」

「今、一瞬美里を疑った。誰か他に男がいるんじゃないかって。そんなわけないのにな」

「う、うん」

「記憶のない美里に男なんてできるはずないのに…俺は一瞬疑った。ごめん!」

雅人は私に向かって頭を下げて謝った。その時、私の中の罪悪感の正体が、私の前にはっきりと現れた。



私の心は、佳祐を愛しているんだ。

私の中の佐藤真沙子が、佳祐を欲している。


だからこうして雅人といて、愛し合うことに罪悪感を感じるんだ。


こんな理不尽な葛藤てあり?

「いいよ、気にしてないよ。分かってくれたらそれでいいから」

雅人に対して嘘に嘘を塗り重ねて、彼を傷つける私。

「湿っぽいのなしにして、ツーリングの続きと行きますか!」

雅人はまた明るい雅人に戻った。