「もう体力的には心配ありません。あとは自宅で療養なされた方が、記憶回復のきっかけが多いことでしょう」

結局、復活した謎の記憶のことを、誰にも打ち明けることが出来ないまま、私は退院した。

肉体的にはかなりの健康体の私だったが、やはり記憶が戻らないうちは療養が必要と言うことで、自宅での引きこもりのような生活が始まった。

幸い、学校は夏休みに入り、私の生活は特別変わったものにはならなかった。


「美里、雅人くんが来たよ」

雅人は私が退院してから毎日来てくれる。

お母さんは嬉しそうに雅人と会話しながら、二階の私の部屋に雅人を連れてきた。


「よお!」

「うん」

雅人は床に腰を下ろした。

差し入れはポップコーンとコーラ、そして私のためにアイスミルクティー。


「パソコン買ったの?」

雅人は私の机の上にあるノートパソコンを見て言った。

「うん。お父さんが暇だろうからって」

「過保護だねえ」

「娘のご機嫌とりだよ。別にとらなくていいのにね」
「心配なんだよ。俺だって美里が心配だよ」

そう言ったあと、雅人は私の目をじっと見つめた。

「一人で悩むなよ。何でも俺に相談しろよ」

「うん。ありがとう」

雅人は私の肩を優しく抱き寄せた。

キスしてくれるんだ。私は瞳を閉じた。

(ダメよ!!佳祐が…)

「いやっ」

私は咄嗟に雅人を押し退けてしまった。

雅人が驚いて私をのぞきこむ。

「何で?」

「か、風邪ひいてたんだ。忘れてたよ」

私はその場を取り繕うために嘘をついた。

「無理してないか?」

「大丈夫だよ!そんなにひどくないから」


「そうじゃなくて、気持ちの方。俺ばかりテンション上がってるのかなって。

したくないことは無理してしなくていいんだぜ。俺、美里の記憶が戻るまで待ってるから」

雅人の優しさのせいで、私の頬に涙が伝った。

雅人は私を優しく抱き締めてくれた。