「真沙子?どうかした?」

私は夫の佳祐に揺り起こされ、寝室で目覚めた。

「ひどくうなされてたよ」

暗い部屋の中でベッド脇の電気スタンドだけが明かりを灯していた。時計を見てみた。夜中の3時だ。

「変な夢を見たわ。ごめんね、起こしちゃったね」

「ああ、夢か、よかった。どこか体の具合でも悪いのかと思ったよ」

「ごめんね」

「真沙子は最近ちょっと無理し過ぎだよ。祐太のこともあるし、疲れてるから変な夢を見るんだよ」

「そうなのかなあ」

佳祐は、私と佳祐の間でスヤスヤと眠る祐太の頭を優しくなでた。

「しばらく仕事休みなよ。今ならアシ雇う余裕もあるし、お得意さんだってわかってくれるよ」

私たちは結婚を機に二人で勤めていた美容室を退職し、二人で貯めていた資金で独立開業した。

美容業界は理髪業界と違い、壮絶な顧客の奪い合いが日常茶飯事の世界だ。
人気美容師だった佳祐は、店の常連をごっそり持ち去った。

それからはしばらくは、前の店との客の取り合いで、不安定な時期が続いた。

もちろん人を雇う余裕などなかった。店内は二人でフル回転だった。

そんな時、祐太を妊娠した。

私は出産ギリギリまで働き、産んで間もなく復帰した。もちろんフルタイムでは働けないが、夫ひとりだけでは店がまわらない。

本当に忙しい毎日だった。
ある時友人の勧めでホームページを作成し、ここで店の紹介や予約をするようになった。

それ以来仕事は怖いほど順調で、雑誌の取材なんかも受け、私たちの店は地域ではちょっとした有名店になった。こうなると、決った予約客だけで無理なく仕事をしていける。

『トゥルース』

私たちのお店の名前。佳祐が名付けた。私の名前、真沙子の『真』からとったそうだ。

「ねえ、私が死んだら、ちゃんと再婚してね」

「突然何を言いだすんだ、縁起でもない」

佳祐は体を起こし、私の様子を心配そうにのぞきこんだ。