「私って、雅人の彼女なんじゃないの?」

雅人は黙ったまま私をジッと見つめた。

優しい目。胸がドキドキする。やっぱり私…。


「記憶が戻った、わけじゃないよな?」

「うん。まだ」


「確かに、俺たち、付き合ってたよ。美里の言う通り、美里は俺の彼女だった」

「だった?今は?」

雅人は寂しげに微笑んだあと、自分の胸の内を語った。

「もちろん、美里の記憶が戻れば、また付き合いたい。でも今、俺は美里にとってただの知り合いだ。美里に、俺との覚えていない過去の関係を強制することはできないよ」

「そんな…」

「もし、このまま記憶が戻らなければ、俺はお前との関係を一からやり直すつもりだ。もう一度俺を知ってもらい、好きになってもらう」

私の胸の鼓動が高まった。予感していた私の気持ちの変化が、今私の心に起きようとしていた。

「美里、好きだ。俺はお前を愛している。過去も、現在も、そして、未来も」

…嬉しい。私も君が大好きだよ…

それは私が記憶を失ってから、初めて手にした本当の私の感情だった。

「雅人、私も君が好きになったみたい」

雅人の顔に笑みが戻った。
「本当?」

「うん!ごめんね二回も告白させたんじゃない?」

「本当だよ、ひでえ話だ。だけど、よかった」

私たちは病室のベッドで抱き合い、キスを交わした。

何もない今の私に、確かにある雅人の温もり。

私たちは病室にいることも忘れてしばらく愛し合った。

私は今、幸せだ。



……ママ!ママー!……


その時突然、私の頭の中に小さな男の子の声が響いた。

それと同時に私をひどい頭痛が襲う。

「うっ、ああ…」

私の異常に雅人が気付いた。

「美里?どうした?」

「あ、頭が、割れそう。雅人、た、助けて」

「よし!すぐ先生呼ぶからな、これ押すんだよな」


雅人はナースコールを押してくれた。これですぐ先生が来てくれる。

「しっかり!大丈夫だから」

雅人は私を励ましてくれている。

でも、私の意識は遠退いていった。

…雅人、離れたくないよ…

私はそのまま昏睡し、暗い闇の世界へと落ち込んでいった。