事務所につき、とりあえず自分が来ていたワイシャツとエプロンを渡し、ももさんが着替えてきている間に、借りたインカムで厨房のヘルプを出す。







「…あの、ありがとう。あとすみません。また迷惑をかけてしまって」







いつの間にか着替えていたももさんが、所在なさげに視線を落として立っていた。







「いや、俺こそ急にキレてすみません。…なんか、イライラしてしまいました」







何とも言えない空気が場を支配して、二人して沈黙してしまう。







「…動揺したのかもしれない」







先に言葉を発したのは、ももさんからだった。







「佐渡くんに、好きと言われたことに…そんなの全然、今まで本気に感じなかったから」






「…そうなんですね」







恋なんてしたこともなく、告白もしたことがなく、意識したこともない自分からしてみれば、そんな変哲のない答えを返すことしかできなかった。







「…俺が怒ってたのは…多分…、ももさんが俺のことを男として見てないのが分かったかもしれません」







口に出して初めて、苛つくほどの胸のもやもやの正体を気付かされた。






素直に口に出せたのは、きっとももさんが先に素直に気持ちを話してくれたからで、そんな少しの気の許しにどうしようもなく期待したくなる。