「…あの、ももさん、大丈夫ですか?」







時が止まったのかと思うほどの静寂に耐えかねて、声をかけてみる。







「…あ、すみません。勢い良く水をだしてしまったみたいで…食器に跳ね返ったみたいですね…」







いつになく饒舌に、しかし淡々と事の始終を話すももさんに少し呆気にとられていたが、濡れてしまったエプロンを外した瞬間に今度は気が動転した。







「ちょ、ももさん!シャツ…!」






「え?…あっ」







水の勢いは相当なものだったようで、エプロンの下に来ていた白いワイシャツは、いとも簡単にその下の薄い紫色のレースを映し出していた。







「―っ、とりあえず、こっち」






「えっ、まだ、お皿洗いとか残って…」






事の重大性を全く把握していないももさんに、なぜか苛立ちが隠せずに、引いていた手と反対の手で強引に背中を押して進めた。







「そんなんあとでいいんで。俺あんま無いすけどちょっと怒ってます」






「……え、ごめんなさい……」







もう絶対に何もかも俺の考えが伝わってないことが、謝罪の言葉から伝わってきたが責める道理は元々なく、完全に私情であるのはどこかで理解していた。






バックヤードの事務所まで向かう間はそう遠くないはずなのに、一気に頭の中をいろんな感情が駆け巡ったこともあり、その距離がいつもより長く感じていた。