「あのっ、ももさん」






「…佐渡くん。お疲れ様です」







声をかけられたももさんは特段驚きもせず、ちらっと目線を向ける。






が、すぐにシンクの方へ向き直り、蛇口をひねり淡々と予洗いを進めていく。






どんな風に言えばいいのかプランを立てずにここまで来てしまったが、後に引く気はなかったので単刀直入に切り出すことにした。







「俺、ももさんのことが好きです」






「…えっ」







ぴたっと動作が止まり、今度はしっかりと目が合った。







「ももさんと付き合いたいです。一緒にまた帰りたいです」






「……」







沈黙と蛇口の水がシンクに打ち付けられノイズを立てるが、気にせず続けることにした。







「でも今ももさん仕事中なんで、また後で返事聞かせてください。邪魔してすみません」






「………あ、はい」







呆気にとられた表情にひしひしと恥ずかしさを感じるが、もうこれ以上なにかを上手くやることも出来ず、軽く頭を下げて足早に立ち去ろうとする。







「―わっ!」






背を向けた途端に思わぬ声を聞いて、進めようとした歩を反射的に止めた。






何があったのかと振り返ると、頭から水をかぶり珍しく呆然としているももさんの姿がそこにあった。