「こないだゲームで賭けやったろ? オレが勝ったからそのときの約束を果たしてもらおうと思ってさ」
胸の鼓動が激しくなってきた。
身体が、一気に汗ばむ。
こいつ、何を云い出すんだ?!
昔からそうだ。勝手気ままで節操がなくて、自信過剰で無神経。
優一はいっちょ前にワックスとかで整えた髪型をいじりながらわたしの近くに歩いてきた。
「え? 賭け? 約束? なんだったっけ?」
以前交わした“約束”の内容、もちろん忘れてなどいなかった。
“優一に彼女ができたら、キスの練習台になること”
バカな冗談を云い出したとあのときは思っていたけど、まさか、本気?!
考える間もなく、優一はわたしの目の前に立ち、わたしの肩をつかまえていた。
1年前までわたしの方が背、高かったのに、いつのまにか抜かされていた身長。
「と、いうわけで、彼女とキスするとき恥かかないように、練習付き合ってくれ」
「ばっ……」
バカ、と云って突き飛ばそうとした。
だけど、混乱しているうちに、わたしの唇は優一の唇とふれ合っていた。
触れた。
わたしの唇に、優一のくちびるが。
ちょんっ、て。
――――!!
「ちょっ……な……、な、なにすんのよーっ!!」
わたしは顔をまっ赤にして、涙目になりながら絶叫した。
わたしのファーストキス……!
こんな理由で、練習台なんて理由で奪われちゃった……!!
「ばかぁーっ!」
わたしはもう一度叫んだ。
優一は、あわてた顔でこういった。
「ばか、そんな大きな声出すなよ! 落ちつけ!」
幼なじみを隣のクラスの女の子にとられた。
ファーストキスも奪われてしまった。
頭が呆然としている。
混乱していて、涙も出てこない。
いや、すぐにでも出てきそうだ、涙。
「月子、ごめん、オレ、ひとつ嘘ついた! 謝る!」
「……は? ……うそ?」

