メガネを外したその先に

「バレンタインにおかき持ってくる奴、初めて見た」


恥ずかしさと共に、珍しく先生が笑ってくれたことが私の胸を熱くさせる。


「昔、婆ちゃんがよく作ってくれたわ。懐かしい。」


私の手元に向けられた視線の意図を汲み取るのは、なかなかに難しい。

押すことも引くこともできないこの手が、先生と私の間にある机の上に置かれ続ける。


「ありがとう」


おかきを受け取ることのないまま、先生が口を開く。


「でも、ごめん。これはもらえない。」