メガネを外したその先に

「彼氏なんて、いない」


二十歳になれるこの日をずっと待ち侘びていたのは、先生の言葉があったからなのに。

先生にとってはその場を凌ぐための断り文句でしかなかったのだろうと、今更ながらに気付かされる。


沈黙が続く車内で、涙を堪えるのに必死だった。


タクシーが静かに私の家の前で停まる。

先生から“降りろ”と目配せされて、致し方なく降りると呆気なく先生が右手を上げた。


「おやすみ」


久々の再会だというのに名残惜しさの欠片もなく、私だけが先生の乗ったタクシーの後ろ姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。