「お願いだ。

将軍家に嫁いでくれ。

お前しか頼れる者がいないんだ」


もう婚約者も決まっている私にそう告げたのは
天皇の実兄。


必死に抵抗したが願いは叶わず
とうとう私が江戸へ出発する日になった。


江戸城に着くとすぐに私の夫になる人
家茂の元へ連れていかれた。


「御台、よく来たな」


その時分かった。


もう私が自分の名前で呼ばれることはないのだと。


私はいつも優しくしてくれる家茂に対して
できるだけ関わらず、

冷たく接した。


そこから3年と11ヶ月が経った頃、

家茂の長州征伐出兵が決まった。