舞花が美奈子へ放った言葉はどれも悪意のあるもの。
美奈子を力で傷つけるのではなかった。
言葉で傷つけたのだ。はっと我に返り美奈子を見た瞬間と強い罪悪感が湧き始めた。
愕然として、舞花からの言葉で暴力を受けた美奈子。
涙がポロポロと流す姿を見て、焦る。
分かっていた。美奈子にこんなことをすれば
父がどんな行動をとるか
知っておきながらも舞花は…。

怒りに満ちた表情と音を立てて、偶然いた
父が舞花の方へ近づいてくる。
そして躊躇いもせずに舞花の胸元を掴む。
実の娘だからと関係がなかった。
舞花の部屋中に、パアンっと銃声のような音が響き渡った。

グラグラと揺れる視界に右頬から鋭い痛みが走り
そのまま床に崩れ落ちていく。
ああ…。私は殴られたんだと気づく舞花。

殴られたせいで音が全て静止していた。
分かるのは、じんわりと痛み熱が宿った感覚のある右頬に口の中で広がる血の味のみ。
殴られたせいで頬は腫れて、口を切ってしまった。
そんな舞花を気にもせずに、ただ聞こえてくるのは
言葉は分からないが自分を罵倒するような言葉ばかり聞こえた。

また、殴ろうとする動作を見せるものの
美奈子が必死に縋りつき、止めに入る。
『やめてください!お父様!
一体何をやっているのですか!?』
『離せ、美奈子
こいつは美奈子を傷つけたんだぞ!?』
そう言って美奈子を振り払う。
振り払われたことにより尻もちをつく美奈子だが
『だからといって暴力を振るうなんて…父親として
人としてどうかと思います!!』
そう言って止めようとした。
怪我をした状態の舞花に目を向けず
怒鳴りつけてはまた、手を上げようとしてくる父の姿を見て舞花は自嘲した笑いがこぼれた。
結局は、自分なんて所詮空気のような存在なんだ。
怪我をしたとしても籠っていたとしてもこの人はどうでもいいんだ。美奈子がいいんだ。
清原の正式な娘よりも妾の娘を大事にするんだ。
笑ったことで父の神経を逆撫でしたのか
『何を笑っているんだ!?』
と言って次は平手ではなく拳で私の頬に向かってまた
殴ろうとした。
がそれを邪魔するように
「舞花様…!」と聞き慣れた声が。
凛花だった。騒ぎを聞きつけてすぐ様やってきてくれたのだろう。
主従関係なく、止めようと近づいてくる。
どこか安心して…苦しい感情が舞花の心の中でぐるぐると回りそして混ざりあった瞬間
プツンと何かが切れた感覚がして。

「…っ!」
「うわっ!」
「お姉様…!?」
気づけば父を強く突き飛ばし、裸足のまま
部屋から走り出した。
どこへ行くかなんて知るものか。
ただ舞花は走り出した。

「舞花様!!」
ただ走り出したときに、凛花の声だけが舞花に残っていた。