「よかった…ずっと部屋にいたので心配で…。」
舞花が元気そうな顔をしていて安堵しているものの
実際舞花は元気ではなかった。
舞花は無意識に後ずさって扉を閉めようとした。
けれど美奈子に制止されて、扉は開かれ
ゆっくりと部屋に入ってきては私の手を握る。
それもとても優しく。
初めて人に手を握られてこんなにも不快になるなんて思いもしなかった。
舞花が部屋に籠るようになってから、幾度となく
美奈子は訪れてくる。お姉様は大丈夫なのか。どうして籠っているのか。そう言われる度に凛花は突き返した。
その様子を扉の先からベッドの中で聞いていた舞花。
凛花に突き返されるだけだから、凛花がいない間を
狙ったのかどうかは知らない、どうでもいい。
ただ、目の前に現れないでほしかった。放っておいて欲しかった。私がいなくてもあなたには優しくしてくれる家族がいる。その人達と過ごしていれば良かったのに。
どうしてここに来るのか。

「お姉様、どうされたのですか?
どこか体調が悪いんですか?」
「…」
「もし、どこか悪いのでしたら
お父様に医者様を呼んだ方がいいですよ?」
やめてくれ。やめてくれ。
私に優しく寄り添おうとしないで。
私を心配するような眼差しで見ないで。
これ以上…
「もし良ければ、私が呼びましょうか?
お姉様のためなら私…」
「…て。」
「お姉様?どうしてそんなに震え…」
「やめて!!!」
差し伸べてこようとした美奈子の手を反射的に強く振り払った舞花。
「それ以上何も聞きたくない!!近寄らないで!!
触らないで!!寄り添ってこないで!!」
そう叫んだ時、美奈子が見えたのは昔母が呼んでいた
本に出てくる、鬼のような顔をした舞花だった。