『美奈子と言います。よろしくお願いします。
お姉様』
彼女の言葉に十二歳の舞花は恐怖した。

ここに連れてこられた時点で察するだろうに
自分がお姉様と呼んだ人は、あなたの父親に捨てられた清原の正式な娘だと。
昔に捨てた妻の娘に思うことはないのだろうか。

恐怖と共に憤りを感じ、思わず着物の袖を強く掴む
舞花。でも、そんなことしているのも束の間で
父から『早く美奈子に挨拶しろ』と言わんばかりの視線が突き刺さり袖を掴むのを辞め
『…こちらこそよろしくお願いします。』
本心でもない言葉を言い、深く頭を下げた。

『…まったく。妹にすぐ挨拶できないとは。
とんだ恥知らずだ。』
実の父に、卑下され心に怪我をした時と同じような痛みが心の中で広がり舞花を苦しめた。

『お父様!そんな言い方はないでしょう?
お姉様は緊張しているんですよ!きっと。』
美奈子が舞花を庇うものの、舞花にとってはいい気持ちではなかった。余計に心が痛くなっていくだけだった。
心が痛くて仕方がなくて、唇を咄嗟に切れる程に強く噛む。

『美奈子…。やはりお前は、優しいな。』
そう言って父は美奈子の頭を優しく撫でる。
撫でられたことで優しく微笑む美奈子にその様子を
嬉しそうに眺める母。

何も事情を知らないくせに連れてこられては自分をお姉様と呼ぶ美奈子。
自分を卑下する言葉を吐き出した父。
最後に追い討ちをかけるように仲慎ましい姿を見せられて
心はますます痛くなり、切れる程に強く噛んだ唇からは
赤い血が流れた。
舞花の受けた絶望は計りしきれなく
三人には絶対に分からないもの。





漢字(かんじ)