抱きしめあっているものの、温かくはならず
二人の体温は下がっていく。
特に舞花は凛花が来るまでに、ずっと降りしきる雪の中で佇んでいた。そのせいで、唇は青く流れた血は乾き
身体は震えていた。足の裏の傷も雪のせいで染みて痛々しい。

このままでは、舞花は風邪をひくどころが
凍死してしまう。

そう思っていた時
また、あの時のようにエンジンの音が聞こえる。
振り向けば、凛花の乗っていた車よりももっと高価な車が止まる。

ドアを開けてくるのを待たずに自力で扉を開けて
二人の方にやってきた。
「舞花…!」
「…お、祖父様…っ?」
やってきたのは神崎の当主にして、舞花の祖父に当たる
神崎藤一郎だった。
どうしてここにやってきのか分からず動揺する舞花だが凛花が教えてくれた。
どうやら、舞花が出ていった後すぐに凛花が神崎に連絡を入れたらしく舞花を探していた。
そして、舞花を見つけたことで凛花の乗っていた車の運転手が連絡をしたことで、やってきた。
「その怪我…っ」
孫の怪我をした姿を見て、震える藤一郎。
色々と聞きたいことがあるものの
今は舞花を温かい場所に連れていかなければいけないため何も言わずに、自分のコートを舞花に着せる。
「凛花と言ったか?舞花を運んで貰いたい。
お願いできるか?」
「かしこまりました。」
凛花はそう言って、舞花をゆっくりと抱き上げた。
抱き上げた時、舞花の足の裏の傷の血が一滴ずつ
雪に落ちていったが、気にせず凛花は舞花を抱き上げて
歩き、車の中に乗り込んだ。

車の中でふかふかの毛布に二人は包まれて
通常の体温に戻ってきた時、舞花はふと窓の方を眺める。どこへ向かっているのかが気になったからだ。
窓から見えた先には見覚えのある屋敷が見えた。

神崎の屋敷だった。
清原の屋敷よりも遥かに大きく高級旅館を連想させる
屋敷。
神崎の門の前にいる警備が車が来たことに気づき快く
門を開く。
門を通った先の車を停める場所で車は止まり
運転手が車の扉を開く。
また凛花が舞花を抱き上げて藤一郎に屋敷の中まで誘導してくれた。

案内してくれたのは、一つの大きな部屋。
お洒落な天蓋ベッドに、白いドレッサー
どれもこれも女の子が使うようなものばかりが詰まっている部屋だった。
藤一郎曰く母が幼少期から嫁ぐまで使っていた部屋だそう。掃除もかかざず行ってくれていたようで埃もない綺麗な部屋。

話したいことは色々とあるが今は舞花の手当てが先。
祖父は凛花に舞花の世話と手当を託した。

それから、舞花は入浴をして手当てをしてもらった。
殴られたことで怪我をした、右頬は状態が悪くて
ガーゼを貼り、そして足の裏も酷い傷だったため
足は、包帯を全体に巻くこととなった。

やらなければいけないことが全て終わった頃には
舞花は深い眠りに落ちていった。
清原にいた頃とは全く違って気が抜けた様子で眠っている舞花を見て凛花は安堵した。
布団がめくれてしまい、ぶるっと震えた舞花を見て
めくれた布団を優しく被せる。

すると扉が開き、藤一郎が入ってきた。
孫がぐっすりと眠る姿を見てもう状態は大丈夫だと悟り安堵する顔を見せる。

殴られた頬がガーゼで覆われて、足全体に巻き付けられた包帯を見て、ふつふつと怒りが湧いてくる藤一郎。
一体孫がどうしてこんなボロボロになったのか。
ここまでになる程何があったのかと疑問が浮かび上がる。
凛花という者がきっと何か知っていると
藤一郎は凛花に話しかける。
「凛花、事の経緯を執務室で話してくれないか?
大事な孫がどうしてこんな風になったのか。」
そう言うと、凛花は真剣な眼差しで「分かりました。」
と言った。
事の経緯を聞く前に、眠る舞花の方に近づき
藤一郎は優しく、頭を撫で
「話は凛花から聞いておく。今はゆっくり休んでいなさい。」
優しく囁き、凛花と一緒に舞花のいる部屋を後にした。