実家では母が不機嫌な表情をうかべ、私の荷物を運びながら文句を言っていた。

「何で帰ってきたのかしら家も狭いのに、あなたの食事や洗濯をまたしなくちゃいけないかと思うとうんざりするわ」

 どうやら母は、それほど喜んではいないようだった。
 昔から顔を合わすと喧嘩ばかりしていたことを、実家に戻り記憶がよみがえる。
 一つの荷物を二人で持つと、それは更にエスカレートしていた。

「いいでしょ、どうせ部屋空いているじゃない。食事も洗濯も自分でするわよー」

「あなた家にいた時も遊んでばっかっりで、何もしないじゃない」

 二階の部屋に荷物を運び入れると母は扉の前に立ち、念を押すように話している。

「食事だってお金がかかるのよ、面倒見るのいやよー」

「わかったわよー、毎月少しだけど家に入れるわよー」

「本当ね、約束したからね」 

 母が捨て台詞のように階段を下りて行くと、負けているような気がした私は、姿の見えない母に対し言い返していた。

「お母さんこそお金入れるんだから、三食ちゃんと出してよね」

 口ではそう話したが、仕事のあてもなく困ってしまう。
 再び住むことになる部屋を見つめ、呟いていた。

「また、ここから出直しか」

 部屋には当時のままとはいかないが、小学生のころから使っていた勉強机が残っていた。
 誰からか頂いたお古の机、そこにはデザイン画を勉強するための教科書や、銀行でもらったウサギの貯金箱が飾り物のように置いてある。

 かっこ悪いが、懐かしく愛おしく感じている。
 持ち上げて揺らすと、音からして数十円入っているだろうか? 
 引き出しを引くと、中には無造作にしまわれている筆記用具達。

 予備に購入した新しい鉛筆もあれば手になじむのであろう、数センチにもなる使い古しの物も有る。更にマジックペンやボールペン、消しゴムが合わさり、筆記用具だけで引き出し全体を埋め尽くしていた。

 ふと気づくと、しまわれていた分度器には男の子の名前が描いてある。
 それは小学生の時にクラスの子に借りたまま、返し忘れた物だった。
 当時のことを思い出しながらセンチメンタルにな気分に浸っていた。

 過去の物に触れ幼少期の気持ちに戻っていたが、そんな私を電話の音が現実世界に呼び戻していた。
 母が名を呼ぶと女の直感で電話の相手が誰であるかがわかった。
 彼からだ。