「数年前にゲルニカの前で、デザイナー達が反戦運動をした話は貴方も知っているかしら」

「はい、ニュースでも取り上げられ私も同じ気持ちでした」

「何十年前の作品が世代を超えて現代も伝え続けている。凄いわよね。私達のデザインで苦しむ人達を救うことは出来ないかもしれないけど、でも何かを伝えることは出来るのでは無いかしら」

「デザインで表現ですか」

「そう。あなたのデザインを見た人が幸せを感じその幸せに近づこう。戦争なんかで日常を壊したくないと思ってもらうえたら、素敵なことじゃない」

 先生の言葉は私の記憶として、頭の片隅に残っているような内容だった。
 昔同じような話をしてくれたのか、それ以前に感じていたのかは思い出せずにいる。
 作品を表現する舞台や内容はは変わっても、人に感情を与えることは同じで有ると痛感させられた。

「東南アジアに旅経つことに軽率な発言は出来ないけど、きっと彼のような先陣者が一歩踏み出すことによって、人々の考え方に影響を与え変化が生まれることは確かだと思うわ。それに医療施設を建築するのだから、きっと安全な場所で行うのではないかしら。もう一度話し合ってみなさい」

 先生の一言一言が、私の心を軽くさせていくようだった。 

 相談してよかった。言葉に出してよかった。
 今まで一人で強がっていた自分がちっぽけに感じるほどだ。
 私の家に来た上品な人物。それは陰ながら私を心配してくれる先生が来てくれたのではないかっと勝手に想像をしていた。


 想いもよらなかった相談が出来、時刻は六時半を回っていた。
 帰宅をするため駅に向かい線路脇の道を歩いている。
 追い抜くように私の横を通る電車内は、帰宅時の人で混み合っていた。

 少し遅れるとあんなに人が沢山。今日も電車に乗るのは無理ね、遊園地から帰宅するお客さんも多そうだし。

 そんなことを考えた私は、いつものように歩いて帰宅することにした。
 時刻的に茜もすでに帰宅しただろうっと水路横の小道を通り、いつものベンチも通過していた。
 人道りの少ないこの道は、当たり前のように寂しく感じほどだった。

 空を見上げると今日は曇り空。

 流石に月は陰っているわね。

 そのことを確認すると、その日は茜に合えないことを何故だか理解している私がそこに居た。