「その妖怪は別れ際に何故かありがとうって声をかけるんですって、気味が悪いですよね。子供達なんか学校が終わったら寄り道しないでまっすぐ家に帰るほどなんですよね」

 期待外れの内容に、心の中では(どうでもいい!)っと叫んでいた。

 私は怒るように答えた。

「なにそれ全然面白くない。しかも寄り道しないことはむしろ良いことじゃない」

 反論する私の発言に驚き慌てている。
 彼は手を軽く前に出すと、キョロキョロっと辺りを見渡すように動揺していた。

「じゃじゃあ、これはどうです。あるお花に願い事をすると叶えてくれるのですよ」

「えっ、お花に願い事?」

 彼は話しながらも、こちらの表情をうかがっている。

「まだ詳しくは教えられませんが、雑誌に載ったら全国的にブームになると思いますよ。オット、でもこれ内緒ですからね」

 大げさに手で口を押さえる仕草は、とっておきのネタだったのだろうか? 口を滑らせたことにも後悔しているようだ。
 私はまた子供向けの話かと脱力を感じたが、うっすら記憶に残る内容に気持ちは和むものに変わっていた。

 今時の子もけっこうロマンチックなところがあるのね。そう言えば私が子供の頃も、願いが叶うと言われ小指の爪だけ伸ばしていたり、消しゴムに好きな子の名前を書くと両想いになると信じていたな。

 純粋だった頃の記憶が蘇ると少し恥ずかしくもなりながら、彼の肩を手で押していた。

「とっても素敵な話しね、可愛いじゃない。フフフッ、ちょっとーヤダー可愛い!」

「そうなのですよー本当に可愛いですよね、あっはっはっはっはっ、内緒ですよ」

「わかっているわよ内緒でしょ……フッフッフッフッ……」

「……あっはっはっはっはっ……」「……フッフッフッフッ……」

 社交辞令のぎこちない会話は、交互に笑い合うことで終わることは無かった。
 私は我に返り当初の事情を思い出していた。
 本題はそこでは無くデザイン業界のことだった。