翌日。少し緊張しながら電話をかけると、受話器の向こうから懐かしい声が聞こえた。

「橘デザインです」

 あっ、先生の声だ。私は嬉しくなり興奮気味に話しかけた。

「先生! 私、京子です。霞京子です。元気ですか?」

「あっ、京子ちゃん、久しぶりねー元気ー」  

 先生の優しい声は、私に活力を与えるようだった。
 最後にお会いしたのが五年前。それ以前はたまに顔を会わせていたのに、仕事が忙しいと言う理由でその機会も無くなっていた。

「帰ってきたって聞いたから、私ねあなたに相談したいことがあるのだけど時間作れる?」

「はい、大丈夫です。宜しければ今日にでもうかがいますけど」

 そう気軽に答えられたのは、橘デザインが電車に乗れば十分もかからない距離だったからだ。
 昨日通った小道を歩いても、三十分で着いてしまう。

「良かった。では十五時、十五時以降なら何時でもいいから会社の方に来てくれる」

 電話を切ってから考えていた。
 先生からの連絡は、私の事情を知ってのことだろうか? どこからか話を聞き寂しい思いをしていると考え電話をくれたに違いない。

 昔から優しい人だったからなー、相談というのも気を使って考えてくれた言葉だろう。
 何もかも優しい先生と会えることに嬉しさが溢れていた。
 
 約束の時間が近づくと、先生に会いたい一心で会社に足を向けていた。

「お母さん、ごめーん。部屋にあるお花取って、靴履いちゃった」

 玄関先に出ると昨日購入した花を手土産にしようと思い、母にそんな言葉をかけていた。